遺言相続 会話式Q&A 7.内縁の妻に財産を残したいのですが。

登場人物  博文さん 65歳 会社退職後年金生活  息子一人 娘一人
内縁の妻夕子さん 62歳 パート勤務  息子一人

博文さん 「10年前に前妻を亡くし、生き甲斐のない毎日を過ごしていたのですが、3年前に大学時代の同窓会で夕子と再会し、交際するようになりました。夕子も5年前にご主人を亡くしていて、お互いの寂しい気持ちを理解し合えたのです。2年前から一緒に住み始めましたが、お互いの子どもたちと財産関係でもめたくないので現在も入籍はしていません。ただ、数か月前に入院したのをきっかけに、私の死んだあとのことについて、いろいろ考えるようになり、そのことで、今日はご相談にお伺いしました。」

すずきさん 「遠方から、わざわざお越しくださり、ありがとうございます。お二人からは、とても温かい雰囲気が伝わってきます。おつらい思いをされたから、お互いの大切さがよくわかるのでしょうね。」

博文さん 「なんだか、照れますね。私が先に逝った場合、自宅だけは夕子に残してやりたいと思っています。子ども2人には、現金を渡すつもりです。夕子は、正社員で長年働いてきたので厚生年金もありますし、亡くなったご主人の遺産も相続しています。お金に関しては心配いらないと思っています。」

夕子さん 「自宅を残してくれるのは、とても有難いです。主人と住んでいた家は、主人が亡くなったときに息子名義に変えて、今は、息子夫婦が住んでいます。主人が先に逝った場合、ここを追い出されたら行くところがなくなってしまうので。」

すずきさん 「そうですね。住むところがあると安心ですよね。博文さんは、既にご存知だと思いますが、夕子さんに、ご自宅を残すためには、遺言書が必要になります。

博文さん 「インターネットで調べたら、そんなふうに書かれていました。私には、二人の子どもがいるのですが、子どもたちのことはどうすればよいですか?」

すずきさん 「法律的には、お子さま方に遺留分が認められています。遺留分というのは、相続人が、生活の安定のために最低限相続できる遺産の割合のことです。お子さま方の遺留分は、それぞれ4分の1ずつになります。」

博文さん 「自宅は古いので、ほとんど土地だけの価値しかないと思います。つい最近、隣の町ですが、同じような広さの土地が2,500万円で売りに出ていました。うちよりも駅に近い土地なので、それを考えると、最大でも2,500万円くらいの価値かと思います。」

すずきさん 「現金は、どれくらいありますか?」

博文さん 「3,500万円くらいです。日常生活は、二人の収入を合わせて、何とかやっていけてますので、それほど大きな金額を取り崩すことはないと思います。家の補修などに少しかかるかもしれませんが、病気になったときには保険金が下りるようになっていますし。」

すずきさん 「不動産と預貯金、それ以外に財産はありますか?」

博文さん 「子どもたちを受取人にした保険があります。私が死んだら、子供たちに500万円ずつ入ることになっています。」

すずきさん 「保険金は、受取人固有の権利ですので、財産とは分けて考えましょう。不動産と預貯金で6,000万円ですね。お子さま方の遺留分は、1,500万円ずつになります。ただ、不動産の価値が上がったり、預貯金の額が減ってしまうと、遺留分の金額は変わってきます。

博文さん 「そうですか、子どもたちは、それぞれ持ち家ですし、私たちのことは、とても喜んでくれていますので、納得してくれると思うのですが・・・」

すずきさん 「それでは、遺言書の付言事項に、博文さんのお気持ちを書かれるのがよいと思います。付言事項は、法的拘束力はありませんが、お子さま方に博文さんのお気持ちを伝えることはできます。それと、保険金を500万円ずつ受け取られますので、そのことも書かれておかれるとよいでしょう。」

博文さん 「なるほど。それはよい考えですね。例えば、どんなふうに書けばよいのですか?」

すずきさん 「私は、夕子と出会い、とても幸せな時間を過ごすことができた。夕子には、自宅を残してあげたいと思う。○○、○○には、現金と保険金を残すので、自由に使ってほしい。いろいろありがとう。万一、夕子が○○、○○の遺留分を侵害していたとしても、どうか、私の気持ちを察して、遺留分額の請求はしないでほしい。お願いします。」

博文さん 「そんなふうに書けばよいのですね。ちょっと、ほっとしました。」

すずきさん 「あくまで一例ですので、実際には、博文さんのお気持ちを素直に書いてください。お子さま方が納得してくれるとよいですが、万一、遺留分額を請求された場合は、支払わなければなりませんので、そこはご理解ください。」

博文さん 「わかりました。」

夕子さん 「子ども達から請求されたら、いくらかは、お支払いすることはできると思います。遺言書を書いてもらえるだけで、安心できます。」

すずきさん 「博文さんがお亡くなりになり、その後、夕子さんがお亡くなりになると、ご自宅は、夕子さんのお子さまが相続することになります。それについては、どのようにお考えですか?」

夕子さん 「そうなってしまうんですね。息子には既に家がありますし、お金もいくらかは残ると思いますので、こちらの家については、博文さんのお子さま方に相続してもらいたいと思います。博文さんは、私が先に逝ったときには、財産はすべて息子が相続すればいいと言ってくれています。」

すずきさん 「そうですか。それでは、少し先になると思いますが、夕子さんがご自宅を相続された後には、ご自宅は、博文さんのお子さま方に遺贈するという遺言書を作成することになりそうですね。」

夕子さん 「そうですね。すずきさんのお話を聞いて、今後の見通しがたちました。今後、わからにことがたくさん出てきそうなので、教えてくださいね。」

博文さん 「ぼくも、また、ご連絡させていただきます。遺言書の作成に向けて進んでいきたいと思っていますので、よろしくお願いします。」

すずきさん 「はい、こちらこそ、よろしくお願いいたします。」