遺言相続 会話式Q&A 8.認知症かも?遺言書って作れるの?

登場人物  栄子さん 55歳 専業主婦  夫と一緒に栄子さんの母と同居

栄子さん 「今日は、母のことで相談にきたの。」

すずきさん 「どうしたの?」

栄子さん 「今、主人と私が住んでいる家は、母の家なの。3年前に父が亡くなったときに、父の名義から母の名義に変えたの。父が亡くなって、母が一人暮らしは不安だというから、夫と相談して、母と同居することにしたの。私たちは社宅に住んでいて、子どもたちも地方の大学に進学して家にはいなかったから、すんなり話はまとまったの。父の遺産で、家の一部をリフォームして、仲良くやっていけてたの。それが、2~3ヵ月前から、母の物忘れが急にひどくなってきて、「財布がない、財布がない」って探し回るようになって・・・もしかしらた、これって認知症じゃないかしら?」

 

すずきさん 「お母さんの日常生活をずっと見てるわけじゃないから、何とも言えないわね。病院には行ったの?」

栄子さん 「まだなの。実は、母には遺言書を書いてもらいたいと思っていて。今みたいな状況でも書けるのかどうかを聞きたくて相談にきたの。」

すずきさん 「お母さんの状態にもよると思うよ。お母さんは、「財布がない、財布がない」って探し回るって言ったけど、それ以外のときの会話はどんな感じなの?」

栄子さん 「そうねぇ。同じことを何回も言うことが増えたわ。でも、昔のことは私よりも覚えていたりするし、子どもたちの誕生日も覚えてるわ。だけど、あるとき、急にスイッチが入ったみたいに、「財布がない、財布がない」って探し回るの。」

すずきさん 「お母さんは、遺言書を書くって言ってるの?」

栄子さん 「1年くらい前かしら?夫と私が同居してくれたことに感謝しているから、この家は私に譲りたいって言ってくれたの。ただ、それを聞いたのは私だけだし、兄に言っても信じてもらえないかもしれないでしょ。」

すずきさん 「そうね。お母さんは今でもそういうふうに思ってくれてるの?」

栄子さん 「面と向かっては聞きにくいから、それ以降は話してないの。」

すずきさん 「遺言書は、お母さんの意思で書くものだから、そこはしっかり確認してほしいの。お母さんが、自宅を栄子さんに譲りたいと思っているのを確認したら、遺言書の話をすればいいんじゃないかしら?お母さんの気持ちを書面で残してくれないと、お兄さんが納得してくれないと言えば、わかってくれると思うけど。」

栄子さん 「そうね。背中を押してくれてありがとう。ずっと、どうしようと悩んでいたから、ふんぎりがついたわ。母にちゃんと話してみるわ。」

すずきさん 「お母さんが、遺言書の内容をしっかり理解できていれば、遺言書は作成できると思うけど、これから時間が経つにつれて症状が進むと、どうなるかわからないわね。できるだけ早くしたほうがいいと思うよ。」

栄子さん 「そうよね。症状が急に進むときがあるって聞いたことあるし。」

すずきさん 「お母さんが遺言書の作成に同意したら、公正証書遺言をお勧めするわ。」

栄子さん 「それって、何なの?」

すずきさん 「公証役場で作成する遺言書よ。法律のプロの公証人と証人二人の前で、内容を確認して作るものなの。お母さんの意思を確認して作るから、だれかに強制的に作らされたのではないかという疑いをかけられることはほとんどないわ。ただ、公証役場に行かないといけないし、費用もかかるわね。」

栄子さん 「母に言ってみるわ。近日中に、また、相談に乗ってね。」

すずきさん 「もちろんよ。」

POINT 判断能力の低下がみられる場合でも、遺言書の内容が理解できるのであれば遺言書の作成は可能。
ただし、遺言者死亡後に、他の相続人から疑いを持たれる場合がある。公正証書遺言の場合、その疑念は軽減されるが100%ではない。疑いを持たれた場合に備えて、医師から診断書をもらっておいたり、遺言書作成当時の様子を日記などに残しておくとよい。
早めの作成を心掛けるのがよい。