遺言相続 会話式Q&A 4.一人息子なんだけど遺言書は必要?

登場人物 愛子さん(60歳 パート勤務)  夫(65歳 年金生活) 一人息子(30歳 サラリーマン)

 

愛子さん 「うちは一人息子だから、遺言書は要らないわよね?」

すずきさん 「う~ん、半分正解かな(笑)」

愛子さん 「そうなの?一人息子だと揉める相手がいないから、要らないとばかり思ってたんだけど・・・」

すずきさん 「ご主人、お元気よね?先日、スーパーでお会いしたけど、とっても元気そうだったわよ。これから、ゴルフの打ちっぱなしに行くんだって言ってたわ。」

愛子さん 「そうなの、ゴルフってお金かかるでしょ。ほどほどにしてほしいんだけど、なかなかね、まぁ、ずっと家にいられるよりかはいいけどね。」

すずきさん 「そうだよね。」「話を戻すけど、女性のほうが平均寿命が長いから、まずは、ご主人が先に亡くなる場合について説明するね。どちらが先に逝くかは、神のみぞ知るだけど。」

愛子さん 「そうね、主人とは同級生だから、主人のほうが早いかも。」

すずきさん 「ご主人が先に亡くなった場合、相続人は愛子さんと息子さんの一也君になるでしょ。遺言書がないと、愛子さんと一也君で、ご主人の遺産の分け方を話し合わないといけないの。愛子さんのところは、財産もたくさんあるし、一也君はお母さん思いだから、一也君が独身でいるうちは大丈夫だと思うけど、結婚して奥さんがつくと、どうなるかわからないわよ。一般論で言ってるから気を悪くしないでね。それに、一也君って、出張が多いでしょ。忙しくて飛び回ってるときに、相続の話し合いをするとなると、かなりの負担になるんじゃないかしら?相続手続きにしても、一也君の署名押印を求められるから、いないときは手続きができないことになるわよ。」

愛子さん 「あら、そんなこと、ぜんぜん考えてなかったわ。なんだか、急にドキドキしてきちゃった。私、一人になったら大丈夫かしら?とっても不安だわ。」

すずきさん 「愛子さん、大丈夫よ。落ち着いて(笑) ちゃんと準備してたら、何の問題もないわよ。」

愛子さん 「準備って、どうするの?」

すずきさん 「ご主人に遺言書を書いてもらうの。遺言書があると、だれがどの財産を相続するのかが決まっているから、愛子さんと一也君が相続財産について話し合う必要はなくなるわ。それに、遺言書があれば、愛子さんが単独で手続きを行うこともできるの。そのためには、愛子さんが遺言執行者になる必要があるんだけど、その話はまたのときにね。難しいことじゃないから安心してね。」

愛子さん 「そうなんだ。主人に遺言書を書いてもらえばいいってことはわかったけど、なんて切り出せばいいかしら?「遺言書、書いて」って言ったら、「早く死んでって」言ってるみたいじゃない?」

すずきさん 「そんなことはないと思うけど。ご主人のご両親の相続は揉めなかった?」

愛子さん 「そう、そう、それが大変だったのよ。主人は、4人兄弟姉妹の長男なんだけど、主人のお父さんが、主人以外の3人の子どもには、それぞれが家を建てるときに、かなりのお金を生前贈与であげたんだって。主人は何ももらってないから、実家の家は自分がもらえるものだと思ってたらしいの。ところが、いざ、お父さんが亡くなってみると、他の弟姉妹が、口裏合わせて、生前贈与の金額は微々たるものだと言い張り、結局、数の力に押し切られた形になって、実家の家も売られて、それを4等分したんだって。それからは、他の3弟姉妹とは、付き合いがなくなったの。私も義理の弟姉妹に対して、それまでとは見る目が変わったし、一也もいとこ同士で、そこそこ仲良くやってたみたいだけど、親の顔色みて今はぜんぜん会ってないみたいよ。お金って怖いわ~」

すずきさん 「そんなことがあったのね。ご主人がそんな嫌な思いをされているんだったら、遺言書はすんなり書いてくれると思うよ。親の相続のときに揉めて苦労したから、自分の家族にはそんな思いをさせたくないと思って遺言書を作る人は多いの。もちろん、愛子さんと一也君が揉めるからというんじゃなくて、相続の話し合いだけでも、相当な時間をとられるし、忙しい一也君の負担になることは、できるだけ避けてあげたいでしょ、遺言書があると愛子さん一人で手続きができるし、場合によっては専門家にお願いすることもできるわ」

愛子さん 「そうなのね。少し安心したわ。主人の機嫌のよさそうなときをみはからって言ってみようかしら?」

すずきさん 「それがいいわね。」「ご主人が亡くなった後、愛子さんが亡くなった場合、相続人は一也君一人よね。その場合、遺言書は特に必要ないと思うわ。ただ、財産のありかをしっかりと記録しておいてあげてね。どこにどんな財産があるかわからなければ、それを探し出すまでに時間がかかるし、場合によっては、その存在自体がわからないままになってしまう可能性もあるからね。」

愛子さん 「そうだね。私の財産は少ないけど、ひとまとめにして引き出しに入れてあるの。主人の財産は、大まかにはわかっているけど、書類がどこにあるかまでは知らないの。それも、主人に聞かないといけないね。」

すずきさん 「それがいいわ。今は、ご主人もお元気だから大丈夫だけど、年齢を重ねると、からだの機能も頭も衰えてくるわ。そうなってからでは、いろんなことが、とても大層に思えて、なかなか進まないと思うよ。」

愛子さん 「そうね。息子のためにふと踏ん張りしてみるわ。」

すずきさん 「愛子さんは、昔から一也君命だもんね―(笑)」

 

POINT 子どもが一人でも遺言書を書いたほうがよい。片親になると不要だが、財産の所在を明確にしておく。
どちらが先に逝くかはだれにもわからないので、夫婦ともに遺言書を作成しておくのがベスト。